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森永卓郎氏【写真・連合通信】 |
超格差社会が到来する
「デフレ脱却」を全面的に打ち出した安倍政権。お金の供給量を増やし景気を刺激する「アベノミクス」で暮らしはよくなるか。経済アナリストの森永卓郎さんに聞きました。
●小泉政権時と同じことが
株価が上がり、1年数カ月ぶりに震災前の水準に戻っています。景気は良くなると思いますが、よく考えないといけないのは、小泉内閣の発足時(2001年)と全く同じことをしているということです。当時、マネタリーベース(日本銀行の通貨供給量)の伸び率を1年3カ月の間に40ポイント増やし、その後景気が良くなって行きました。ただ、成長の成果をだれが手にしたかというと、大企業の役員の報酬は約2倍、株主への配当金は約3倍に増えた一方で、サラリーマンの給与は減り続けました。これが小泉改革の正体でした。おそらく今回も同じことが起きると思います。経団連は春闘で「ベースアップは論外」と言い、聖域の定期昇給にも切り込む構えを見せています。物価は上がるが賃金は増えない。年金もスライドされない。中小企業は仕入れの値上がり分をすぐに製品価格に転嫁できない。大企業の「勝ち組」だけがますます富み、逆に、中小企業や、そこで働く人々は沈んでいくことになります。
さらに、安倍政権は子ども手当(新・児童手当)の縮小や、生活保護の切り下げなど、民主党政権で実現した平等化政策をすべてぶち壊そうとしています。このままだと、超格差社会が到来すると思います。
●円高とデフレの解消を
ただ、金融緩和はマクロでは間違っていません。少し前まで経済が「どん底」だったのは、円高とデフレだからです。解決するにはどうすればいいか。お金の供給を増やせば円安になり、国内ではお金の価値が下がるので、デフレは止まり、インフレになる。これは経済学の常識です。日銀は金融緩和をしてきたと言いますが、実は昨年3月末までの7年間、お金の量をビタ一文増やしてきませんでした。「日銀が銀行にお金を供給しても、融資先がないじゃないか」という反対論もあります。普通、デフレの時は、マンションなどの大きな買い物は、必要でない限りしませんね。でも、物価が上がる局面では、また売ればもうかるので消費は促進されます。これと同じことが、企業の設備投資にもあてはまります。ただ、莫大な内部留保をため込む大企業は、最初は自己資金を使いますので、銀行の融資が増えるまでには少し時間がかかります。ここを乗り越え、庶民の懐を暖める政策が必要なのです。
●せめて欧米並みに
米国はリーマン・ショック(08年)以降の4年間でお金の量を3倍に増やしました。一方、日本はわずか4割増(今年度の上半期)にとどまっています。何も無制限でやれと言っているわけではない。せめて欧米と同じぐらいにしなければ、円が独歩高となり、独り負けすることは歴史を学べばわかるはずです。大規模な金融緩和を行えば、「超円高」は是正されます。リーマン・ショック前の「1ドル・110円」台まで戻れば日本の製造業は立ち直れます。